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仙台藩伊達家伊達政宗

瑞鳳殿棟札 祈願文—鳳凰に託された平和への祈り―

2022.05.24

 瑞鳳殿は寛永13(1636)年5月24日、70歳で生涯を閉じた仙台藩祖伊達政宗公の遺命によって、その翌年造営された
御霊屋です。桃山文化の遺風を伝える豪華絢爛な装飾が見どころですが、その彫刻の中で最も象徴的な瑞獣(瑞鳥)が
「鳳凰」です。鳳凰は聖徳の天子が治める平和な世に現れるとされ、鳳が雄、凰が雌で一対を為します。政宗公は男性
であることから「鳳」の字が採用され「瑞鳳殿」の名称になったと考えられます。

 政宗公の異名といえば皆さまご存じの「独眼龍」ですが、政宗公といえば「龍」のイメージをお持ちの方も多いと思い
ます。龍もまた鳳凰と同じく寺院や御霊屋の名称などによく用いられる瑞獣です。
 それではなぜ「龍」ではなく「鳳凰」が御霊屋の名称に採用されたのでしょうか?
 その手がかりは瑞鳳殿建立の際に制作された「棟札」にあります。棟札は一般的に建物の骨組みを造った後、屋根の
最も高い場所に棟木を収める「棟上げ」の際に、工事の由緒、建築の年月、施主や工匠の名前などを記し、棟木などに
打ち付ける(あるいは置く)木板の札をいいます。

「瑞鳳殿棟札(左:拝殿 右:本殿)」

 瑞鳳殿の棟札は本殿と拝殿のものがあり、いずれも臨済宗妙心寺派の僧で政宗公の葬儀で導師も務めた、瑞鳳寺開山 清嶽
宗拙禅師が揮毫しています。特に本殿棟札は「名称」「祈願文」「建立年」「施主名」、「奉行」「監造」「僧名」「役人」
「匠人(大工・小工・綵画・唐蒔絵)」などが詳細に記された大変立派なものでした。そのなかで鳳凰について触れられて
いたのが「祈願文」です。祈願文は神仏に対する建立の願意(願い事)を記したもので、そこには以下のようにありました。

 立柱上梁出郡抜萃世界斉平鳳凰現瑞
(意訳)建物は群を抜いて優れたもの、世界は平和で鳳凰はその瑞(徴)を現わしますように

 政宗公の御霊屋が優れた建物であることを称えると共に、世界の平和とその象徴である鳳凰が現れるよう願うという内容
です。御霊屋はそもそも墓所であり、瑞鳳殿の一義的な目的は政宗公の菩提を弔うことです。しかし同時に藩祖の墓として、
家臣や領民にとってはまた別の大きな意味を持っていました。それは、仙台藩の鎮護の象徴、心のよりどころとしての存在
です。

 江戸時代は初期を除けば戦乱もなく、政治的には太平の世が続きますが、日本中で大火事や大地震、火山の噴火、水害など
人為を超えた災害に幾度も見舞われています。仙台藩領でも慶長の大地震をはじめ、推定でマグニチュード7を超える大地震
が最低7回は起こっている事が解っています。また正保年間には仙台城下で1594戸を焼く大火が、続く承応年間にも火災が発生、
さらに宝永年間には合わせて4400戸を焼く大火が断続的に起きています。これに加えて毎年のように水害が起こり、人や家や
橋が流されるという被害を受け続けていました。
 こうした災害と隣り合わせで生きていた当時の人びとにとって、神仏に世界の平和を祈ることは、自身の生命にも直結する
何より切実なことでもありました。

 2022年は続く新型コロナウイルス感染症の流行に加え、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界は平和とは離れた状況に
あると言わざるを得ません。そうした世界規模の禍の中にある私たちにとって、瑞鳳殿の鳳凰に託された平和への祈りは、
より一層深く心に感じられます。

※本年は再建瑞鳳殿本殿の中間修繕の年であり、10月からの着工を予定しております。
2001年の仙台開府400年の記念に行われた大改修以来の本殿修繕になります。
この瑞鳳殿本殿中間修繕を記念し、今回ご紹介した瑞鳳殿棟札(清嶽宗拙禅師揮毫)の「瑞鳳殿」の書体を模し、平和を
祈念する意味を込めて、同じく棟札の「祈願文」を印字した特別御集印を売店にて頒布しております。頂戴いたしました
御集印料(お志)は、中間修繕の費用や瑞鳳殿境内の環境整備などに充てられます。
お立ち寄りの際はぜひお求めいただければ幸甚に存じます。

 「瑞鳳殿修繕記念御集印」